水害を乗り越え、最高の焼酎へ
熊本県人吉市の大和一酒造元は、1898年創業の酒蔵です。伝統的な手法への探求を続ける、代表社員の下田文仁様にお話をうかがいました。
原料となる地元産の玄米はタンパク質や食物繊維をはじめ栄養が豊富で、焼酎の味わいに深みや芳醇さをもたらします。
球磨川がもたらす恵み
豊かな米どころの球磨川流域で造られる球磨焼酎には500年の歴史があります。人工培養した酵母で大量生産する手法が確立されたのが明治時代。それ以前の作り方は誰も分からない状態でした。この仕事を継ぐ前は高校で歴史の教員をしていたこともあり、好奇心を掻き立てられて古い文献を読み漁りました。その記述を基に、白米ではなく玄米を使い、酵母の自然発酵に託す製法への挑戦を始めました。
そのさなかの2020年7月、豪雨災害に見舞われました。蔵は3メートルの高さまで浸水し、原酒の8割が水没する壊滅的な状況でしたが、洪水で球磨川から新たに運ばれてきた酵母もたくさん蔵に住み着いたはずだと考えました。その酵母たちと一緒にお酒造りをしてみようと思ったのです。試行錯誤を重ねて商品化に成功しましたが、まだ答えにたどり着いたわけではありません。もっといいお酒ができると信じてチャレンジを続けます。
水害を機にホイスト導入
以前は蒸したお米を下から持ち上げる機械を使っていましたが、豪雨で水没してしまいました。今後また大雨が降ったとしても、上からつり上げる方法なら水没のリスクが少ないと考え、ホイストを導入しました。仕込みと片付けを並行して進める大忙しの状況で、酒造りが断然楽になりました。追加購入し、いまでは3台使っています。蔵は天井が低いので、コンパクトなサイズも決め手でした。
蔵の中に湧く温泉水。仕込みに使うことで味がまろやかになります。弱アルカリ性で、二日酔いになりにくいとのこと。とはいえ、飲み過ぎにはご注意ください。